【エマちゃん編 第1話】

大学編

引きこもりだったぼくが、恋をするまで

引きこもり生活が続いていたぼくには、女性との出会いなんてまったくなかった。
だけど、アルバイト先で出会ったひとりの女の子によって、少しずつ心が動き出すことになる。
その子の名前は、エマちゃん。ぼくより1歳年下。色が白くて、可愛くて、一人暮らしをしていて、車も持っていた。ぼくより年下なのに、なんだか大人っぽく見えた。

ある日、エマちゃんが言ってくれた。

「エマが、のぞさんの女友達第1号になってあげる。」

女友達なんて一人もいなかったぼくには、その言葉がとても嬉しかった。
彼女は誰にでも明るく接する子だったから、その一言も何気ないものだったのかもしれない。
だけど、ぼくにとっては特別だった。

エマちゃんは、昔の恋の話もしてくれた。
「19歳のときに付き合ってた人がいて、今でもその人が一番好き」って。
どんな人だったんだろう、どんな恋だったんだろうって考えて、少しだけ胸がざわついた。
それがきっと、ぼくがエマちゃんのことを好きになっていた証拠だった。

アルバイトを始めて半年くらいたった頃、エマちゃんとずいぶん仲良くなっていたぼくは、勇気を出して言ってみた。

「エマちゃんの家、遊びに行ってみたいな」

返ってきたのは、まさかの「いいよ」という返事だった。
飛び上がるくらい、嬉しかった。

その日、ぼくは先にバイトが終わって、ドキドキしながら彼女を待った。
そして、エマちゃんが車で迎えに来てくれて、彼女の家へ。
エマちゃんは、手作りのグラタンを作ってくれた。
そのグラタンの味は、今でもよく覚えている。

夜になって、二人で並んでテレビを観たり、たわいもない話をしているうちに、気づけば静かな時間が流れていた。
ふとした間に、ぼくはエマちゃんにキスをした。
エマちゃんも、そのキスを受け止めてくれた。

そして、ぽつんと彼女が言った。

「ねえ、のぞさん。わたしのこと、好きなの?」

もちろん、好きだった。
だけどそのとき、なぜか言葉が出てこなかった。
このまま走り出したい気持ちと、今のままでいたい気持ち。
そのはざまで、ぼくは揺れていた。

その夜は、エマちゃんの隣で眠った。
ただ静かに、ふたりで布団に入って、夜が過ぎていった。

翌日、昼頃に目が覚めると、エマちゃんは「お姉ちゃんとお好み焼き食べに行くんだ」って言って、家を出ていった。

その後、ぼくはまたエマちゃんの家に遊びに行きたいって伝えた。
でも、彼女は少し困ったような顔をして、こう言った。

「わたしも…思わせぶりな態度、しちゃったかも」

その言葉の意味がすぐにはわからなかった。
どうしてだろう。あんなに楽しかったのに。
でも、それが現実だった。

ぼくたちは、少しずつもとの「友達」に戻っていった。
恋人ではない、でもただの友達とも言えない、そんな関係へ。

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