父のお弁当と、家族との距離
就職して一番よろこんでくれたのは、父でした。
仕事が始まると、父は毎朝ぼくのためにお弁当をつくってくれました。
そんなふうにお弁当を作ってもらったのは、小学生のとき以来だったので、素直にうれしかったです。
ぼくは父のお弁当を食べて、社会人としての毎日をがんばることができました。
奥さんも、就職したことをとてもよろこんでくれました。
関係はそれまでと変わらず、旅行に出かけたり、いっしょに遊びに行ったりと楽しく過ごしていました。
両親へのごあいさつ
そんななかで、ぼくたちはお互いの両親に交際のあいさつをすることにしました。
最初に、奥さんがぼくの家へ来てくれました。
父はとてもよろこんでくれて、顔を合わせるなりこう言ったのです。
「今日ここに来られなかった人がいます。いまでも心の中にいる人がいます。」
それは、亡くなった母のことを意味していました。
父なりに、母へ報告していたのだと思います。
弟は奥さんのことを「お姉ちゃん」と呼んで、すぐになついてくれました。
次に、ぼくが奥さんのご両親へあいさつに行きました。
ぼくの実家は、父がよく話し、継母がそれをまとめるような雰囲気の家ですが、
奥さんの実家は、お義母さんがよく話し、お義父さんはそれを穏やかに聞いているという印象でした。
ぼくの父は感情の起伏が激しく、喜怒哀楽がはっきりしているタイプですが、
奥さんのお義父さんは精神的にとても落ち着いていて、
「こんな人もいるんだ」と少し驚きました。
同棲の準備と父の変化
就職をきっかけに、ぼくと奥さんは同棲することを決めました。
このときも父は喜んで協力してくれて、冷蔵庫、洗濯機、食洗器まで、機嫌よくそろえてくれました。
10代のころ、ぼくが引きこもっていた時期には、
考え方の違いで父とぶつかることも多く、勘当されかけたことすらありました。
けれど、就職して、彼女を家に連れてくることができたことで、
父はとてもよろこんでくれて、ぼくらの関係もだいぶ良くなったように感じました。
こうして、ぼくと奥さんは、初めて一緒に暮らすことになったのです。
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